店主のつぶやき これまでの「店主のつぶやき」をあらため、アナログメディアに書いてきたものを収めています。
更新は少ないかと思いますが、バックナンバーを読まれた感想などもお寄せください。
2001年は、地元紙・「南海日々新聞」の「リレーエッセー・つむぎ随筆」に1年間(8回)連載の予定です。ここでも、同時掲載いたします。


つむぎ随筆・(4・3付)

                   「尊(とうと)がなしのクチ」
                                         森本眞一郎


現実は噂にぬりこめられている。

尊いに口でウワサだが、辞書(『字通』)には、「あつまっていう、やかましい。
モノカタリ・カタラフ。尊貴の意は含まない」とある。
アリッ?わ吾んには尊いクチもあるのだが。

 「アゲー!亡(もう)りっくゎし……」
半世紀前、瀕死の状態で生まれた。
よくある話だが、たまに家を閉ざすと、近所の人たちは吾んが死んだのでは…
とウワサしあったという。
あとでご本人たちから聞かされて、ウワサとはそれぞれの場所からの祈りのハーモニーのように感じられた。

「いつまでもつかやぁ?」
自分の結婚披露宴のときだ。
晴れの門出の退場シーン。
「オメデトー!」コール歓声の最中にである。
ブットビのヤジ主は、吾んを良く知る先輩だった。
得意のギャグとゲキだろうと思ったら、回りの仲間たちとの本音でトークだった。
ヤラセでないナマのビデオはリアルだ。
何年もつのか賭けてでもいるのか、彼らのごきげんなカタライは、なによりの祝詞(のりと)となった。
今でも夫婦の危機管理時には、「いつまでもつかやぁ?」と非常ベルが鳴りひびく。

 「長(なげ)さやねんかも!」
古本屋をオープンしたとき。
友人が訪ねてきた。
「バスの中でおばさんきゃが、ウワサしとったどぉ!」
「ぬう何ちよ?」
「あん本屋や長(なげ)さやねんかも!っち」
「何故(ぬが)かい?」
「いばさ、やなげさ、こぅてなっさんっち、それと……」
「……」

友人がチクったおばさんたちの言霊がとり憑いて、何度も店を直してはきた。
「せまい、きたない、うるさい……」店の印象は、はて、クリアーできただろうか。
これも心もとない。
本土なみの、広くてきれいな大型店が、奄美でも本流になったからだ。
かつがつ長らえていくには、狭いながらも古書本道にたちもどり、オリジナルな道を展開するしかないだろう。

 赤(はぁ)山(若葉)を芽ぐむサクラ(ツツジ)ナガシもみずみずしく、新年度だ。
親の諭旨(ゆし)ぐとぅも、他人のウワサや本音もキモに染めたい。
クチはやはり尊(とうと)がなしだ。(了)

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